「元のスタイルに戻っている」といわれるトリッキー7作目のフル・アルバム『Vulnerable』。おそらくこの世評は、近作『Blowback』や『Angels With Dirty Faces』を見舞ったのと同様の、きわめて無責任な反応から出たものだろう。もちろん、こんな世評が出回るのも、みんなが期待しているからこそだ。イングランドでもっともマリファナを愛好するアーティストが、デビュー・アルバム『Maxinquaye』に匹敵する、時代精神そのもののような衝撃作を送り出してくるに違いないという期待。だがお若いの、現実を直視したまえ。そんなことが起こるはずはないのだ。 本作はトリッキーならではの展開を見せており、闇の中をジグザグに進んでいくような感覚、超現実的な夢の情景、キャッチーでポップなフックと進む中、トレードマークである不安定なビートとハード・コアなスラッシュ音(そう、トリッキーには相変わらずニュー・メタル的な素質があるのだ)が盛大に挿入されていく。トリッキーらしい意味不明な発音が随所に出てきて、いささか過剰なほどだが、全トラックの半分でヴォーカルを担当している女性歌手コスタンザのお陰でバランスが保たれた。トリッキーの書き下ろしによる多彩な楽曲群のほかに、カヴァーが2曲ある。見事セクシーに仕立て直されたザ・キュアーの「Love Cats」と、かえってオーラが弱められてしまったXTCの「Dear God」だ。「元のスタイルに戻っている」とはいいかねるし、『Maxinquaye』にはまるで似ていないが、それでも聴きごたえ充分な創意に富んだアルバムといえる。リスナーを納得させるだけの内容があるのだ。(Paul Sullivan, Amazon.co.uk)